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ドキュメント「夢は眠っていないか?」Part.Ⅴ  結婚は女性の幸福というが、女性の幸福を得たかわりに“夢”をなくしてしまうこともある。 

 1973年のとある日のこと――内藤悦子は、新宿ルイードのステージに立っていた。客席にはプロダクションのスタッフ、レコード会社のスタッフの他に、テレビ、ラジオのディレクター、音楽評論家、音楽雑誌編集者などが多数つめかけていた。その翌日、彼女はレコード会社と専属契約を交す予定になっていた。その前祝いということもあって、所属プロダクションが彼女のために御披露目コンサートを開いてくれたのだった。ルイードで歌えるとは思ってもいなかっただけに、彼女は感動していた。
 その1年ほど前、彼女はルイードの客席にいた。新宿を歩いていて、ふらりと入ったのだった。髪の長い女性がピアノの弾き語りをしていた。彼女はその女性が誰であるか知らなかったが、その歌に新鮮な感動を覚えたという。「少女」というこの歌を彼女はラジオで聴いて知っていたが、目の前でピアノを弾いている女性が五輪真弓とは知らなかった。
 その頃、彼女は歌手をめざして修行中だった。高校を卒業して長崎から単身で上京して2年目、まだチャンスをつかんではいなかった。何人か面倒をみてくれる人はいたが、右も左もわからない19歳の少女にとっては、その人たちを本当に信用していいのか? これで大丈夫なのか? 判断がつかないでいた。たったひとりなので相談する人もいない。彼女は音楽関係者という大人の世界の中でいつも神経をとがらせており、ギスギスとした精神状態にあった。だからこそ、「少女」は彼女のハートにストレートに突き刺さったのだ。
 それ以来、彼女は「少女」を繰り返し聴くようになる。この歌を聴いているときだけは、19歳のふつうの少女に戻ることができたからだ。尊敬する五輪真弓と同じルイードのステージに立つことは彼女の夢だった。そして、その夢が実現した。その意味では、その日は彼女にとって“人生最良の日”になるはずだった。しかし、ステージが終わって家路にむかう彼女は憂鬱な気分でいっぱいだった。レコード会社と専属契約を結ぶべきか、結ばざるべきか、と判断が下せないでいたからだ。彼女は恋に落ちていたのだ。わずか数ヶ月の付き合いではあったが、状況は恐ろしいほど速いスピードで結婚へむかって突き進んでいた。彼女は仕事と家庭は両立できると考えていた。だが、フィアンセからは「仕事はやめてくれ」という最終結論が下された。相手は長男ということもあって親類縁者から山のような祝い物がどんどん送られてきていた。その現実を目の前にすると、結局彼女は歌手になるという“夢”を捨てないわけにはいかなかった。
 「その頃の私って世間知らずだったでしょう。だから、祝い物の山を目の前にすると、もうどうしようもないと思ったし、ここでやめたりしたら彼も困るだろうなって思って、結婚を取りました」
 結婚は女性の幸福というが、女性の幸福を得たかわりに、彼女はひとりの人間として“夢”をなくしてしまったのだ。
 それから3年間ほど、彼女はテレビもラジオもいっさい見たり聴いたりしなかったという。歌が聴こえてくると、歌手に対する“未練心”が騒ぐからだ。
 「悔しかったですね。デビューしてやるだけやって駄目だったらあきらめもつきますけど、スタート・ラインに立って走らないでやめちゃったでしょう。だから、毎日イライラしてました」
 あれから30数年が経って、子育ても終え、彼女は平穏に暮らしているが、あのときに封印してしまった彼女の夢は眠っていないか?
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category: 俺が言う!

2009/10/19 Mon. 12:32 [edit]   TB: 0 | CM: 0

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