「70年代シティ・ポップ・クロニクル」(萩原健太著)を読んで-情報が少なくて不自由だからこそ逆に想像力が働くのです。
「70年代シティ・ポップ・クロニクル」書評
安田 万央
音楽評論家・萩原健太著の「70年代シティ・ポップ・クロニクル」は、数あるシティ・ポップのなかから、著者が最も重要だと感じる15枚のアルバムを選び、時代順に並べ、その15枚から派生する作品を挙げて紹介している。なんと関連ディスクを合わせると計100枚ものアルバムが紹介されていることになる。
また、音楽シーンが大きく動いた1970年から1975年の最も濃い5年間を著者の実体験や、当時の状況とともに綴られているのが魅力のひとつ。実際にその時代を過ごしていた世代は、共感し懐かしく思うだろう。そして後追い世代にとっては70年代音楽への興味を掻き立てられる1冊となっている。
正直、24歳になったばかりの私は70年代シティ・ポップのことなんて知らない。「名前を聞いたことがあるな…テレビで聴いたことあるような気がする…」というぐらいの知識しかない。でも本書を読んでいると、どうしても聴いてみたくなる。ただなにも知らずに昔の曲を聴くだけと、そのアーティストのデビュー当時の話やその当時の背景について知ってから聴くのとでは大きな違いがあると思う。そして著書はシティ・ポップを聴いてみたくなるだけではなく、70年代の音楽シーン全体にまで興味を持たせてくれる。
私が1番驚いたのは当時の“情報の少なさ”である。現代ではパソコンを開けば真偽はともかくとしてどんな情報だって載っている。私にとってそれは当たり前のことだった。でももちろん70年代ではありえないことだ。
“ロック喫茶”について著者は語る。「レコード盤から聞こえる音そのものと、パーソナル・クレジットと、30センチ四方のジャケットにプリントされたヴィジュアルと。それだけの限られた情報を手がかりに、異国の地で勝手な妄想をもんもんと広げた結果生まれた奇妙なカルチャー・シーン。本場アメリカでは絶対にありえない独自の音楽体験。」
たった40年程で音楽シーンが激動したことを痛感する。そしてできることならば70年代を体験してみたいとさえ思う。確かにたやすく情報が手に入る便利な世の中になったが、本書を読んでいるとなんだかうらやましくて仕方がない。情報が少ないからこそ、皆が音楽に対して今より熱意と情熱をもって接しているようなそんな気がしてならないのだ。だがもちろん、70年代を実際に体験することは不可能なので本を読みながらおすすめのアルバムを聴いて、思いを馳せることにしようと思う。
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この文章を読んで目から鱗が落ちる、気がしました。それは現代は情報がありすぎてかえって人間の感性を鈍くしているということです。情報が少なくて不自由だからこそ逆に想像力が働くのです。そんな“原点”に戻ることができたら今のミュージック・シーンはもっと豊かになるかもしれません。
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